それは誰かの日常

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とある憂うつな7月7日

 『グリーン色の夏雲』

 

む〜んとした空気の

狭いオフィス


あちらこちらから

カタカタと響く

キーボードの音

 


不規則に唸る

古いエアコンの音が

いやに耳につく

 


ツーと流れる

首すじの汗を拭うと


嗅ぎ慣れた洗剤の香りが

ふっと目の前をよぎった

 


陽に焼けた壁には

創立記念と書かれた時計が

少し左に傾きながら

午後4時40分を指している

 

あと少し…

 

固まった首を

時計と同じように傾けると

四角い枠の向こうに

消えかけの飛行機雲が見えた

 

 

その向こうから

不意に

誰かに呼ばれたような気がした

 

ん?

 

席を立ち

建てつけの悪い

窓を開けると

 


木々が

けらけらと笑いながら

雲の向こうへ行こうよと

誘っている

 


空を見上げると

さっきまであった

飛行機雲は

もう空の色になっていた

 

 


何年も

田舎へ帰ってないな…

 

 

あの透き通った

鮮やかなグリーン色のカーディガンは

君の細い肩を

まだ包んでいるのだろうか

 

 

おい!

いつまで窓開けてんだ!


あっすみません!

 


ガタガタと

四角い枠を戻し

 

席に戻ると

もう12分が過ぎていた

 


電車の予約でもするかな…

 


急に

ブーンとエアコンが唸り

洗剤の香りが

鼻先をかすめていった

 

あのグリーン色の

カーディガンと同じ


優しく懐かしい

爽やかな夏雲のようだった


teal tree

凍えるような8月11日

『氷の仮面』

 

そこは
笑い声に満ちた空間だった


足を踏み入れると


ただ笑い声が
活字として襲ってきた

 

楽しそうにも見える
その空間は


でもなにか毒々とした
硬く冷たい場所だった

 


笑っている音は
聞こえているのに

誰も笑っていなかった


まるで
氷の仮面をかぶったような


そんな人々が
笑いながら話していた

 


この人たちの心は
何処にあるんだろう

 

 

探り続けている僕に
硬い音が話しかけてくる

 


その硬い音は
心地よいものではなく


その空間の冷たさを
より一層凍らせた

 

 

こんな所で
僕は何をしているんだ


このまま
凍りついて動けなくなるのか

 


ここにいてはダメだ!

誰かが頭の中で叫んだ

 


後ずさりして振り返り
走ろうとした瞬間


誰かの冷たい右手が
僕の左肩を掴んだ

 

やめろ!

 


自分の叫び声で目が覚めた

 


いったい僕は何から
逃げようとしたんだ?

 


ベッドの上で
天井を見つめながら

 


深く息を吐き…
また目を閉じた

いつかの6月30日

カイヤナイトの海の底

 

69分の 静寂と決断を

煌くオレンジのざわめきが包み込む

 

 

 

君のそのまなざしは

どこまでも優しいまま

 

ヒカリに飛び乗る

僕の背中を見つめていた

 

 

 

レモングラスの風の声で

 

とてつもなく長い

0.1秒の夢から目覚めた

 

teal tree